力を持ちすぎたものや周辺から頭一つ飛びぬけたものは、良くも悪くも注目されるものである。
賞賛されるのは自分にとって利益になるものであり、忌避されるのは自分にとって利益にならないものである。
それは人もMAIDも同じであった。
彼女、アンソレンスは特別な力を持ち、それを未熟ながら活用していた。
初めは直接攻撃時、敵を一時的に動きを鈍らせ、停止させることであり、次第にそれは敵の誘導、動きの制御に至る。
武器攻撃による接触が条件であり、抵抗されることもあるが、敵を効率よく始末する上で役に立つ能力だった。
その能力自体はサポートとして的確なものであるが、使うMAIDが悪かった。
彼女は自分が中心になって行動しなければ気が済まない傾向にあり、
同時に高圧的な態度が味方の顰蹙を買う一つの要因でもあった。
自己中心的で生半可に力のあるものに向けられる目は、妬みや非難と言ったものだった。
直接的な戦闘能力はさほど高くはないが、効率的に敵を撃破し、それを鼻にかける態度、
同僚MAIDにとって癇に障る存在でしかなかった。
もし彼女が、グレートウォールの英雄であるジークフリートと一対一での決闘を行ったとしたら、
十中八九彼女は勝てないだろう。
その英雄ですら、一人の活躍で戦況を覆すなどという大層なものではなく、人類の勝利に向けて貢献している程度のもの。
しかしそのようなことは、彼女を疎むMAID達にとって重要ではない。
例え味方であったとしても、自分達の価値を脅かすMAIDが目障りなだけだった。
何も特殊な力を持たないMAIDでも、集団若しくは一対一でもアンソレンスを倒す事ができる。
しかし上層部からの処罰を恐れ、味方を表立って攻撃するわけにもいかず、精々嫌がらせを仕掛けることしかできなかった。
一環として彼女の存在を無視することであるが、実際のところ彼女にあまりダメージになっていない。
味方から疎まれ続けることに慣れていたアンソレンスであるが、彼女に一つの転機が訪れた。
グレートウォールでの戦闘後、基地へ帰還する時、一人の少女が彼女の前に現れた。
それがMAIDである事が一目でわかる程、奇抜な衣装に身を包んだ猫の亜人のようだ。
「なんだお前は? まあいいわ。邪魔だから帰って」
少女は、ヴェードヴァラム師団からの愛の使者レジーナと名乗った。
レジーナと名乗る少女は珍妙な格好だけではなく、随分と不愉快な口調をしている。
今の自分が着用しているスタンダードなMAID用の制服とは違う。別の国のMAIDだろうか?
ただの変わり者MAIDの相手をしているほど、自分はお人よしではない。
相手にするだけ無駄だ。そう思いアンソレンスは無視して帰ろうとした。
「待つニャ! あんなところにいつまでもいて息苦しくないかニャ?
ヴェードヴァラム師団は、話がわかりそうな貴方を歓迎しているニャ」
この亜人もどきの相手は、強ち無意味というわけでもなさそうだ。
そう思ったアンソレンスは敵意を解き、話を聞いてみることにしてみた。
「不自由? 私はあんな小さな奴等、眼中にないわ。
で、ヴェードヴァラム師団? 連合の特殊部隊か何か?」
飛びぬけた杭は、別なところへ移し有効活用する。
そのための勧誘だろう。初めはそのように思っていたが、違和感が拭えない。
別所に配属ならば、軍部からの正式な命令なり文書が届くはず。
だがそれをMAIDに行わせていることから、表にでない部隊だろうか。
いくつかの答えを予想してみたが、レジーナの口からは全く違う言葉が飛び出た。
「違うニャ。我が主ヴェードヴァラムの下で、連合を支配するニャ。
丁度その素晴らしい力、我々の為に役立てるつもりはないかニャ?」
連合を支配? ということは、連合の特殊部隊ではない。
何か全く違う、連合に敵対するようなものへの勧誘なのだろうか。
疑問が浮かんでは消える。
が、それよりもレジーナの"支配"という言葉に、アンソレンスの心を惹きつけるものがあった。
彼女は味方でありながら自分に敵意を持つ者を、取るに足らないと認識している。
が、それすらも黙らせ、自分にとって快適な生き方ができるのなら、惹かれないはずがなかった。
レジーナの少ない説明から、ヴェードヴァラム師団とは少なくとも連合に敵対する存在であることを読み取った。
同時に、ヴェードヴァラム師団がどの程度の組織であるか知りたくなった。
巨大な連合に立ち向かう組織は、どれほどの大きさなのか。そして、その"支配"という言葉に現実味を帯びているのか。
とりあえず、本当かどうかわからないが、聞いてみた。
「全世界に潜むスバラシーウィ! スポンサー10万人以上!
ボスと自分のためにせっせと働く団員も1万人以上!
まだまだ事業は拡大中! 連合なんてメじゃないニャ!
魅力的じゃないかニャ?」
レジーナは、所属するV4師団の現実的な数値に加え多少の誇張を含めた回答を行った。
しかしアンソレンスにとって重要なのは、数ではなかった。
別組織へ所属し、同じ様な扱いならばリスクを冒してまで行うべきではない。
「そうね、それもいいわ。あの息苦しいところに付き合っているのも飽きてきたし。
ただし、条件があるわ。待遇よ、待遇。分かる?
この私を引き抜きたいのなら、そのくらいは考えて」
「ンッンー? この魅力的で二度とないチャンスをここで逃すつもりかニャ?
息苦しくて動きにくくてドロドロな連合が、そんなにいいのかニャ?
自由が欲しくないかニャ? 自分の力を存分に振るえるところが欲しくないかニャ?」
レジーナは、半ば挑発染みた言葉でアンソレンスを誘ってくる。
だが、ただ無意味に挑発しているわけではない。
彼女にとって惹き付けられる言葉を選んでいるようだ。
事実、言葉尻は兎も角アンソレンスは興味を示している。
伊達にV4師団の勧誘役をやっていないということだ。
「つまり、連合よりは良いということ? ボスとやらに会わせてくれたら考えたい」
「ボスはきっと歓迎するニャ! 入るか入らないか決めてもいいニャ」
このMAIDは必ず我々の元に入る。レジーナはそう確信した。
連合へ出向してからMAIDへ声をかけることは何度かあったが、
話の核心までこぎつける価値があったMAIDは彼女一人だけだった。
問題は、アンソレンスはV4の役に立つかどうかだ。
「ところで、ワルい事はできるかニャ?」
アンソレンスは、連合に敵視されてでも自由である組織というものに、内心期待していた。
自由と言っても、組織である以上無秩序ではないはず。
レジーナが言うワルい事とは、自分達にとって都合のいい事だろう。
それなら問題ない。念のため一言釘を刺すようにして答え、確認をとった。
「悪いこと? 別にいいけれど。自分達の首さえ絞めなければ」
レジーナは、ここまで快く承諾してくれるとは思っていなかった。
使命感と正義感を刷り込まれているかと思いきや、それほどでもない。
エテルネという国の体制だろうか。それとも、このMAIDの気質なのか。
それについては置いておくとして、このニューカマーは何処まで事を起こせるのか、その意思を知りたくなった。
「いいね、凄くイイニャ! それじゃエテルネも敵に回せるかニャ?」
「問題ないわ。で、Gはどうする?」
「降りかかる火の粉は掃い、火種は最大限に利用するものニャ」
例え人類の敵でも、利用できるものは最大限に利用し、こちらの敵になれば始末する。
V4師団はアパッシュ、連合からすると敵なのだ。
敵には災厄を、身内には利益を。利益が欲しければ我等に与せよ。
レジーナはアンソレンスにそう説明し、理解した。
「ではそろそろ行こうかニャ? 貴女の自由と我等の発展のために」
エテルネのMAIDの一人は、国と軍へ背を向けた。
自身の自由と安息と欲を満たすために。
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