悪夢のキノコ


日が照るわけでもなく、寧ろ陰鬱とも言える曇天の下、
リスチア国東部にて、一つの部隊が森の中で土と落ち葉を一歩一歩踏みしめていた。

「隊長、これ重いしすごく疲れるよ。もう嫌! 代わって!」

普段の元気はどこへやら。
まだ戦闘前だというのに、彼女達の顔からは疲れの色が見えていた。
背中に青銅色のキノコと大型の鉈を背負った少女が、兎の耳をつけた女性に強く懇願するように話しかけた。

「我慢してカルディナ。正直言うと、私も少し疲れてきたわ。
だから、一人一つね。それにしても、これでは戦う前に負けてしまうわ」

この忌々しいキノコを誰も彼もがつけているのは、勿論理由がある。
グリーデル王国の首都セントグラールに居を構えるEARTH本部から指令で、試作兵器のテストを行って欲しいとのことだった。
第一段階である非戦闘時の挙動テストは問題なく完了しているとのことだった。
が、それは彼女達クター隊が行ったものではない。
第二段階である戦闘時の挙動テストの任を、「最低一撃、"G"からの攻撃を防御し、効果を確かめた上で戦闘を終了させ、装備を持ち帰る」という条件で請け負うことになった。

そのためクローディアとエスメラルダは接近戦用装備をし、前衛を増やすことにした。
ガブリエラ、フォルトゥーナ、トラヴィアは戦闘時の装備負荷の違いを確かめるテストを行い、
クローディア、エスメラルダ、カルディナは接近戦時の防御性能についてのテストだ。

なんでも、これはMAIDの持つコアエネルギーを整えることで防御効果を向上させるという代物らしい。
対人、対MAID(コアエネルギー)による直接攻撃への防御効果は実証されたようだが、対G(瘴気)となると未だ不明だ。

忌々しい。ああ忌々しい。
隊の一人、エスメラルダは不機嫌そうに目を細め俯き、悪態をつく。
敵がいれば、すぐにでも細切れにしてしまいたい。
彼女は"G"にも劣らぬ黒いオーラを撒き散らしながら森の中の先頭を歩いていた。

普段は先頭を歩くのは、予め先行しているトラヴィアを除くと、大抵はカルディナかエスメラルダだった。
しかし、今はエスメラルダが距離を取って先行しすぎている感がある。
カルディナ達の後方をつき、目の前に見えるエスメラルダの空気を察知したフォルトゥーナが口を開いた。

「なんだか怖いです……」

「そうね。早く終わらせて可愛い子に戻ってくれたらいいのに。
そうすればあんなことやこんなことも後で……」

後方での射撃武器を使用しているため、比較的負担の少ないガブリエラだからだろうか。
余裕を持った笑みを浮かべ、不安げな表情を浮かべるフォルトゥーナに返した。
戦闘前に敵以外に恐れを抱いて支障があっても困る。ガブリエラならそう意識しなくても、不安を和らげる事を口にできる。
彼女はそういうMAIDだ。だが、その後の一言は必ずと言っていいほど意味深なものがついて回るが。

突然、それぞれの肩に装備されている大型のものだけではなく、下半身にも装備している小型のキノコ型試作兵器が振動した。

「あ……」

何故か分からないが彼女達の顔は紅潮し、思わず吐息を漏らしてしまう。
どうやらこれは、敵である"G"の接近を感知している証拠らしい。
敵が近づくたびにこの振動では、戦闘に集中できない。それは隊の皆、全てがその考えに一致した。

敵はワモンの大群だ。森の中でのワモンというのは、平原以上に強敵に感じられる。
何故なら、樹木で銃弾と視界を障害物に遮られながら、一方的にそれを破壊し襲い掛かってくるのだから。
複数に分かれた敵部隊、そこでクター隊は三人を前面に配置し、その両翼後方に後衛二人を配置する陣形で望んだ。

「こんなもん使ってられるかーッ!」

とうとうエスメラルダは我慢の限界を超え、左肩に背負っていたキノコを外して右腕から右手首に装着し、
敵であるローカストに向かって突き進み、力の限り殴りかかり、跳ね回り着地するワモンの下部へ命中した。
"G"の装甲とMAIDの能力により強化された金属のキノコがぶつかり合い、Gの装甲を覆う瘴気が粒子状の塵となって霧散した。
それだけでは留まらず、左手の盾で殴りかかり、右手に握られたハンドミキサーブレードを突き刺した。
その結果、ワモンの外骨格の一部が砕かれ、装甲が剥き出しになった部分に剣が螺旋状の刃の動きを無視しつつ、深々と突き刺さる。

「死に腐れ!」

エスメラルダの握る剣は、捻ることで回転させワモンの体内奥深くへ抉り入れた。
次にそのまま抜くことで更に傷口を広げ、傷をズタズタに引き裂くことができる。
だが逆方向に回転させることで、そのまま抜くよりも更に深い傷を与えることを選んだ。
エスメラルダはドリル状の刃を逆方向に回転させながら、横一文字へ大きく移動した。

クローディアは、"G"の攻撃によりなぎ倒された樹木の上に飛び登り、敵数の大体を把握した。
エスメラルダが大きくターゲットから離れることを確認した直後、
盾を持った右手からスローイングダガーをばら撒き、エスメラルダによりダメージを与えられたワモンの上部装甲の模様へと命中させた。
模様の中心へ投擲剣は突き刺さり、直後、ガブリエラの機関砲が唸りを上げて傷ついたワモンを蜂の巣の肉片へと変化させた。

やっと一匹のワモンを撃破したが、戦いはまだ始まったばかりだ。
次のワモンは樹木ごと体当たりし、カルディナの居る方向へ突っ込んでいった。
カルディナは両手に構えた大型の鉈を使い、樹木とGに対し正面から受け止めるように防御し、同時に両腕から高熱を発生させた。
高熱に覆われた鉈は樹木に突き刺さり、徐々に木から炭へと姿を変えて、鉈から抜け落ちていった。
カルディナの斜め後ろから高速で巨大な銃弾飛んでいき、カルディナと対峙していたワモンの横腹へめり込んだ。
その衝撃からワモンは一時的に足を止め、覆われていた瘴気が振り払われた。
それがこの虫にとっての終わりを知らせるものだったのかも知れない。
大きく振り上げられたカルディナの鉈は力強く振り下ろされることにより、ワモンの装甲をかち割った。
更にカルディナの両腕から高熱を発生させることで、先ほどの樹木と同じ様に鉈を通してワモンの体は徐々に膨張し、
水分を含んだ肉部分が急速に煮えていった。
例え虫でも自らの体が燃えるように熱くなっていくのが自覚できるのか、鉈が突き刺さっているワモンは大きく手足を動かし抵抗していたが、やがてその動きが停止した。

クローディアは樹木の上から飛び降り、ワモンの上へ着地しながら両手で握られたエストックを突き刺した。
コアエネルギーに覆われた巨大な針は、あらゆるものを貫くものとなり、それは瘴気で覆われた"G"であっても例外ではなかった。
巨大な針は鍔まで敵の体を突き刺し、引き抜きながらまた上方へ跳ね、後方へと移動した。

落下衝撃への影響は、多少緩和できている。後は"G"からの攻撃を一度受けるのみ。
そう思ったクローディアは、右腕に装備した盾を使い敵の注意を惹きながら攻撃を自分に集中させるよう立ち回った。
ワモンの足による鋭い突き刺しを、クローディアは盾で受け流して、ワモンの伸びた足の間接を左手のエストックで突き刺した。
漏れる体液を盾でかわしながら、味方の射線軸から外れるよう、もう一度ワモンを踏み台ついでに攻撃し、倒れた樹木の上へ飛び乗った。
クローディアが射線軸から外れると同時に、フォルトゥーナとガブリエラの一斉射撃によりワモンの瘴気と装甲は剥がされ、弾丸はその身を貫いた。

こうして多数のGを、複数人の連携により確実に撃破していくことによりその数を着実に減らしていった。
最後の一匹を撃破し、戦いの場は終わった。この場に立っているのは"G"ではなく人類だった。
だが、その勝利は決して楽なものではない。
こうして周辺に存在する敵対勢力を撃破した彼女達は、まさに満身創痍といった状態だった。
戦闘前は森であった部分が、今では無残にも瓦礫の山となっている。一部には戦闘の影響で焼けた部分も存在する。
もうこの場に留まる理由はない。
長居は無用、クター隊は周辺の状況を確認するとトラックを止めてあるところへ向かった。
彼女達を載せてきたトラックは後方遥か先だ。
歩いていくのは辛いが、もはやこの近くに敵はいない。今のところは。

トラックへ歩いていく途中、クローディアは静かに口を開いた。

「誰も死なずに良かった。けど……メル、今日は先行しすぎよ。
まだカバーできる範囲だったから良かったけれど」

「すいません隊長……」

口調は穏やかだが、自分がやった事実を的確に指すクローディアの一言は、エスメラルダの気分を少し沈ませた。
クローディアも、キノコ装備の不快感によりエスメラルダの気分が安定しない事を見越してはいた。
先行しすぎたことは個人だけではなく、部隊そのものに損害を与える恐れがある。
命令とは言え、キノコを装備させた自分に責任は少なからずある。
だが、彼女に必要なところは改めてもらわなければならなかった。
エスメラルダが精神的に成長するか、耐性が付かないから負担を与えないようにするのか、次の戦いではどうするか考えていた。

ガブリエラがエスメラルダの横に立ち、囁いた。

「あなたの折角の可愛い顔に傷が付いたら困るんだからね。だからすぐに突っ込まないでね。
突っ込むのはベッドの上でね」

「うん、わかったよガブリエラ。でも……その……」

ガブリエラに励まされたのは嬉しく思う。
しかし相変わらずその後ろの一言への対応は、エスメラルダを困惑させた。

戦いの帰り道、この戦闘と試作兵器への評価を考えながら彼女達はトラックへと足を運んだ。

ちなみに彼女達が下した評価は次の通りだ。
「大型キノコ型試作兵器ジャドール、小型キノコ型試作兵器ユーフォリア、共に現時点では実戦に耐えうるものでない」と。


登場人物
クローディア
エスメラルダ
フォルトゥーナ
カルディナ

ガブリエラ
トラヴィア


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