槍の柄の部分に何故かボタンがある。槍にこんなものが付いている理由が全くわからない。
それは兎も角、この奇妙な斧槍は返還した方がよいのだろうか。
私はお嬢様と共に、王宮の離れにある屋敷へと向かった。
いきなり会っても問題ないのだろうか。問い合わせてみると、アポイントは特に必要ないようだ。
扉を開けると、私達は信じられない光景を目の当たりにした。
皇子と二人のメイドが、逆立ち状態で回転して片手で腕立て伏せをしながら、もう片方の手でアイロンをかけている。
これは何の冗談だろうか。
先日、訪問したクリスティーヌ様の部屋で見た、ダンボールに入っている大量の柑橘類を貪っていたM.A.I.D.とは訳が違う。
明らかにこれは異常だ。テラモユスの家系はやはりおかしな人間ばかりなのだろうか。
私達が扉の前で凍り付いていると、三人は逆立ち状態をやめアイロンを台の上に置き、挨拶を始めた。
此方も挨拶を返して早速用件を説明し、この槍について聞いてみた。
執事服を着た長身のM.A.I.D.……と言っても、二人とも同じ服を着て長身だ。
アストリッドと名乗るM.A.I.D.の片割れと皇子イサナが、この槍について一言会話をした程度で決断を下した。
「私は拳で闘ってるからな……斧槍なんかは」
「実際に必要ない?」
「端的に言うと、むしろ邪魔」
「あ〜こっちも送り返しを受け取るの面倒だし、そっちで好きに使っちゃっていいよ」
「ありがとうございます。しかし、何故これを私達に?」
「手違いなんだ。本当はアストリッド用のために作ったんだけど、いらないっていうからねえ。
そうだ、槍があるならこれがないとね。これを武器につけるんだ」
そう言うと、小さな七枚の光ディスクを我々に渡してきた。
やはり理解できない。邪魔とまで言われるような代物なのかこれは。
どうやら必要ないということで、こちらにくれるようだ。
一体何のためにアストリッドに送ったのだろう。不要だと判断したから、適当に送りつけたのか。
見た限り、非常にいい加減な性格をしているようだ。その可能性は十分にある。
ありがたく受け取ったことだし、訓練場に戻り、とりあえず一通り使ってみることにした。
このボタンで変形するようだ。変形する武器……M.A.I.D.ジークフリートが持つバルムンクのようなものか。
斧槍、大型剣、短めの左右対称の双剣、ロングライフル……流石にアイロンには変形しないようだ。
妙な安心感を覚えながら、一通りの武器を振ったり突いたりし、感触を確かめてみる。
槍としてみれば重くは無いが、普段使用している装備が軽量なため、多少の違和感はある。
本来は、アストリッドのために作られたものらしい。しかし、使いこなせないわけではない。
槍自体も自分の身長並みの長さと、槍にしては非常に短い。しかし、剣としても銃としても非常に長い分類に入る。
重量的にも大きさ的にも、片手で扱えるようなものではない。
槍のみ持つ場所によっては片手で扱うことができ、レイピアと似たような攻撃をすることができる。
流石に構えまでは同じ様にすることはできないが、槍術を使えばどうにかなる。
渡された光ディスクは全部で七枚。それぞれのアタッチメントディスクを武器に装備することにより、
エネルギーサークルが読み込んで効果を発揮するというもの。
武装から燃料を噴出し、機動力を与えるディスク。武器の振ったり突いたりする速度に応じて、衝撃波で追加攻撃できるようになるディスク。
収束熱線を照射することが可能なディスク。燃料によって攻撃方向の推進力を強化するディスク。
武器の刀身から冷気を発生させるディスク。7分間という短い時間、エネルギーサークルの力を全て開放し、全ての力を行使できるディスク。
このディスクのみ、注意書きが何か書いてあるがよくわからない。「一時の間だけ魔法少女になれます」
確かに衝撃波、収束熱線、冷気を自在に使えるとしたら魔女にはなりうるだろう。
しかし魔法少女……人間で表すなら既に少女とは言えない私が魔法少女……深く考えない方がいいのかも知れない。
最後の残り一つは、こう書かれている。
ディスク「エクストリーム・アイロニング」
「斧槍の機能を維持したままアイロンも出来る優れものになる。まさにアイロニスト!
何故、アイロンなんだ? だって? 決まってるじゃあないか! そこに皺があるからさ!」
意味がわからない……何故、この時代に武器を使って家事をしなければならないのか理解に苦しむ。
メイドは家事でもしていろという皮肉だろうか。
確かに、ハンマー部分に熱と蒸気を発生させ続けられる能力は悪くない。しかし、実際にアイロンとして使用するには少々柄が長すぎる。
このディスクを装備したまま変形させると、どうなるのだろう。そう思い、私はそれぞれのタイプに斧槍を変形させてみた。
剣のタイプは、刃の部分がアイロン代わりになるようだ。銃のタイプは、銃身部分から熱と蒸気を発している。
剣は兎も角、銃身でアイロンをかけるのは今まで見たことが無い。
お嬢様はというと、このディスクを気に入ったようだ。是非これを愛用して欲しいとのこと。
物欲しそうな目でこちらを見ている……やはり欲しいのだろうか。念のため確認を取っておこう。
「お気に召しているようでしたら、お嬢様、あなたが使いましょうか?」
「いいえ、クローディア。これはあなたのためのものです。この争奪戦でより多くの勝利を掴み取りましょう。
その代わり、この戦いが終わったら私にくださいね。死亡フラグじゃありませんよ」
死亡フラグ……やはりお嬢様もテラモユス皇帝の血を引いているからか、どこかずれている。
しかし屈託の無い笑顔でそう言われてしまうと、やはり可愛げがある。
やはりお嬢様の元につけたのが幸運だったのか。このクローディア、何時までもお嬢様の下についていきたいものです。
そう思いながら、クローディアは訓練所で可変槍に慣れるため様々な試行を続けていた。
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