クソッタレ、油断していたのが祟ったか。目潰しを喰らい、皮膚には強い不快感を催す痒みと同時に海賊達に襲われるなんてな。
何が起こったかというと、鉄格子の先を踏み込んだら突然粉を投げつけられた。そう、前の戦闘で俺がやったことを、そっくりそのままやってきたんだ。
自分が直前にしたことを、何の対策もなしに喰らうとは冒険者としての適正を疑われてしまうな。
周囲の状況を確認できない俺は、痒みに悩まされながらも自分が今もっているもの、笑い声などから敵の人数を必死で探った。
ダメだ、数人居ることはわかるが、完全には把握できない。何とか涙で目に入った粉を流さなければ。
なにやら詠唱してくる声が聞こえたかと思うと、鋭い針のようなものが体に当たった。
突き刺さった針のようなものを抜こうとしたが、突き刺さった感覚は一瞬だけですぐに傷口の空洞が出来た。
抜く手間が省けたのはいいが、そうは言っていられない。すぐさま横腹に強い衝撃と痛みが走り、地面に叩きつけられた。
何やら訳のわからない言葉と笑い声が聞こえ、何人かが俺の両腕や胴体に蹴りを入れてくるが、両手に持った武器はどうにか握り締めたままに出来た。
俺は右手に持った長剣で、倒れたまま闇雲に振るい続けた。
こうして抵抗を続けることで効果が出ているのか、多少蹴りを入れられる回数は減ったようだ。
この機会に乗じた俺は、なんとか立ち上がり、雄叫びを上げながら周囲をただ闇雲に長剣と盾を振り回し暴れまわった。
顔は涙で濡れているが、これで威嚇することができるはずだ。その効果もあってか、敵もむやみやたらに接近してこないように見えた。
目が見えないおかげで足元がふらつくが、時折剣や盾が壁に当たるので、体が壁にぶつかることは無かった。
何度か詠唱が聞こえ、鋭い針のようなものが体に突き刺さるが、それすらも敵の位置を知る基にして、相手の方向だと思われるところに盾を構えて突進した。
突進するたびに壁にぶつかり、左右から鋭い針のようなものが突き刺さるが関係ない。
何度も突進しているうちに、次第に痒みが収まり、目が見えるようになってきた。
俺は少々霞気味の目で周囲を見渡し、敵の数を確認した。
倒れている男が二人、赤い服を着た男が一人いる。早速、俺は赤い服の男に向かって突進し、長剣で胴体を狙って突いた。
胴体には当たらず、その代わり右肩に当たり、突き刺したまま振り下ろして肩の一部を引き裂いた。
男は痛みで叫ぶが、痛いのはこちらだって同じだ。その口を黙らせるために盾で殴り、長剣を顔面に叩きつけた。
長剣は男の顎にめり込み、大きな音を立てて倒れた。顔を確認してみると、白目を剥きながら血を流している。
残りのうつ伏せで倒れている男二人に、念のため一度首に長剣を刺してから脚で体を裏返した。
この世のものとは思えない酷い表情をした顔だ。確認するまでも無く死んでいる。
死体の所持品で有用なものを全て漁った後、もう一度周囲を見渡し聞き耳を立て、敵が居ないことを確かめた。
僅かに水のような音がする以外は何もない。
いい加減、目を擦りたくなってくる。確かこういうときに効果覿面な薬があったな。
キュアライトコンディションの薬を飲むと、次第に涙と汗が噴出した後、多少気分が落ち着いた。
どうやらこれは、代謝を促進させて体調を整える魔法の効果を持つ薬のようだ。
何時敵に会うかわからない。傷薬を使って出来る限りの傷を治してから探索に戻ろう。
付近を見渡し、正面にある無数の鉄格子を、左から順番に先ほど手に入れた看守の鍵を使い開錠を試みた。
正面にある鉄格子は全て開かない……というより鍵穴がない。側面にも鉄格子は無数に存在するので、全て試してみよう。
鉄格子を全て開けた部屋の二つに、人間の骨の残骸らしきものが、地下牢の壁にもたれかかっていた。
最期の時以来、それに触れたものは居ないようだった。
骨の間を探ってみると、石が緩んで床から突き出しているところが見つかった。
その石を外して下を覗き込むと、そこには奇妙な文字で書き記された、小さな航海日誌のようなものが入っていた。
殆どのページは汚れすぎていて読めなかったが、文字さえ解読できれば最後の一部だけ読めそうだった。
航海日誌の他に、楽器を見つけた。ハーモニカのようだが、生憎俺は楽師ではないのでこの楽器の力を引き出すことは出来ない。
不要なものは売却してしまおう。俺は牢屋らしき部屋を抜けた後、クィークェグのところで不要物を処分し、代わりに薬をいくつか買った。
次に探索するところは、東にある四つの部屋だ。鍵は十分にあって足りる。
まずは北からだ。それから徐々に南のドアを開けていった。
一番北の部屋には部屋には大切そうなものは一切無く、恐らく物置として使われていたようである。
奥に部屋があり、銅の鍵を使いドアを開けると、古いワイン棚が床に崩れ落ちていた。
しかし、その中身はずっと昔に空になっていたようだ。
暫く部屋を探った結果、見つかったのは中身の入っていない古いワインのビンだけだった。
しかし、奇妙なことに腐った棚の下の辺りの床から、何か出っ張りのようなものが突き出しているのが見つかった。
部屋の天井を調べてみると、やはり同じ様な割れ目が出来ている。
しかし、その辺りにはその原因となるようなものは何もなさそうだった。
北から二番目の部屋の壁は、色あせた落書きや汚い走り書きで埋められていた。
「オークの馬鹿騒ぎ 金曜 夜8時」「一人で寂しい夜は…1−900−LADY」
$$ 探しています $$
『迷子のスヌープチェリ』
見つけた方には謝礼
ル・モンテスまでご連絡を
床には壊れたテーブルがいくつか散らばっていた。
「TREBOR SUX」と書かれた壁の辺りに小さな穴が開いている。多分小鼠の仕業だろう。
北から三番目の部屋を空けると、また物置き場らしき所だった。
腐って落ちている木の棚があり、壊れかけた古い鎧掛けが部屋の角でゆっくり風化しつつあった。
一番南の部屋には、四つの石のテーブルで仕切られていた。
その置き方の整然さから考えると、どうもこの部屋は会食の間だったようである。
奥にドアがあり開いてみると、そこには貯め置かれた幾つもの樽は腐って割れており、包装された何かが中から床に零れ落ちていた。
中身の殆どが固くなっていたが、部屋の湿気のおかげでいくつかがまだ柔らかいままだった。
包みを開けてみると、中はチーズだった。
しかし、かなり古くなっているので、とても食べられるような代物ではなかった。
そこで俺は考えた。落書きの下にある小さな穴にこのチーズを置いたら、鼠は穴から出てくるだろうか。
それを試すべく、穴の前で古くなったチーズを振り回してみると、向こう側でなにやら物音がした。
チリチリ言う音は次第に大きくなり、壁の向こう側が揺れているのが感じられるほどになった。
突然、凶暴に荒れ狂った巨大なネズミによって、壁は勢いよく吹き飛ばされた。
茶色くて非常に大きく太った鼠が一匹、薄肌色の鼠が五匹、緑色の鼠が六匹。鼠とはいえ、非常に数が多くて対応しきれないか。
手始めに、目潰しと眠りの粉を使い、数が多く固まっている鼠から眠らせ、盲目に陥れた。
一グループを眠らせているうちに、もう一グループとリーダーが大量に跳びかかってくる。
さすがにこれでは対応しきれない。防具のおかげで爪や牙が肌を貫くことは人間相手に比べて少ないとはいえゼロではない。
眠った鼠から順番に長剣で両断していくが、振るっても振るってもこの数では露払いすら容易ではない。
とはいえ、確実に数は減っている。ある程度数が減っている今なら待ち構えて迎撃いる方が楽だ。
大きく太った鼠以外は一撃で倒せるが、この鼠だけは他とは違うようだ。
何度斬り付けても脂肪の鎧でなかなかダメージが通らない。突くにしても見掛けによらず動きが素早い。
剣で斬り付けてもあまり効果がないのなら、別な手段を使うしかない。
魔法の氷柱の力を解放し、弱い冷気の塊を鼠に当てた。威力そのものは低いが、確実に相手にダメージを与えているようだ。
10本あるうちの全てを使い果たしたとき、やっと鼠の動きが鈍くなってきた。
今が好機、俺は鼠の腹に長剣を突き刺して引き裂いた。
鼠相手とはいえ、数が多ければ人間以上に手強い相手になる。素直にそう感じた。
鼠の死骸を足蹴にし、大穴の奥へ向かうことにした。
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