ピラミッドに戻り隠れながら探索を続けているが、やはりあの原住民達は数人固まって行動していることが多い。
大剣の質量により、気付かれなければほぼ一撃で葬れるが、その後の対処に困る。
ここは剣で殴りかかるのではなく、眠りの粉で動きを止めてから始末するなり素通りするなりした方がいいのだろう。
探索していて一つ思ったことがある。下の階には原住民が多いが、上の階にはモンスターの巣になっていることだ。
原住民とモンスターを争わせておくというのもできないこともないが、共存している可能性もある。
敵同士を争わせるのも戦術の一つだが、それが簡単にできれば苦労は無い。
偶然に任せるしかないか。
何度もスイッチを押していくうちに、最初は隠されていた床や壁が開き、ピラミッドの隅々までいけるようになった。
とあるピラミッドの一室に立ち入った時、妙な金属の箱を見つけた。
それは近寄ると、四つの窪みに転移していったのだ。どうやら、誰かが足を踏み入れると作動する魔法のようだ。
このままでは延々といたちごっこを続ける羽目になる。それは真っ平御免だということで、別な道を探すことにした。
そしてもう一つの部屋に立ち入ると、なにやら黄色い触手が俺の脚を掴んだ。
そう、あの人食い植物の亜種だ。この近くには何種類いるんだ。
そんなことを思いながら、奴の触手を大剣で叩き切ることに成功した。
こいつの触手の体液からは、妙に粘着性のある液体が染み出してくる。
あまり気分がよいものではないが、使うあてはある。
俺はその触手を持ち帰り、転移する金属箱の部屋へ入って窪みの一つに向けて触手の体液を搾り出した。
予想が正しければ、この転移する金属箱の動きを止められるかもしれない。
そう思い、俺はこの金属箱を何度も転移させて目的の位置まで誘導した。
目的の位置まで来ると、金属箱は足を踏み入れても転移しなくなった。
箱がピッタリとくっついて動かなくなっているのだ。
その箱を開けてみると、骸骨の彫刻が施された鍵があった。
やはり、このピラミッドのどこかにあるのだろう。
スイッチを押し、一度頂上まで行き再び別な階段を使って地下深くまで潜っていくと鉄格子が見えた。
骸骨の鍵を使うと、予想通り鉄格子が開き、その先にはとても長い通路がどこまでも続いていた。
暫く歩いていると、足元のスイッチを押してしまい、床に大きな穴が開いてしまった。
後ろを振り向いても、大きな穴がある。しかし、それと同時に横にあるスイッチに気がついた。
そのスイッチを押すと、また元のように床がスライドし、穴は塞がれていった。
更に先に進むと、妙なスイッチが壁と床にあった。
壁のスイッチを押すと、後ろの壁が動く音がし、その先にもスイッチがあった。
そのスイッチを押してみても、特別何も起こらない。
はずれだったのか機能していないのか分からないが、兎に角何も起こらなかった。
床のスイッチも踏んでみたが何も起こらなかった。いや、何も起こらなくてよかったといった方がいいのか。
少し気になるところだが、ここで立ち止まっていても何も起こらない。
通路を更に歩いていると、また床にスイッチがあった。やはり踏んでも音しかならない。
何も起こらないことに不安を抱きながら、前へと進んで行った。
また横にスイッチがある。押してみると、後ろの床がスライドし穴ができた。
帰り道をふさがれてしまったか。そう思いながら前に進みドアを開けると、また小部屋の奥にスイッチがあった。
押してみるとまた隠し部屋にスイッチ。これも押してみると、音がしただけで何も起こらない。
これ以上部屋を探索しても何もない。一体どういうことなんだ? そう思いながら戻っていく途中、まだ床のスイッチを踏むと後方に穴が開いた。
覗いてみると比較的浅い穴で、奥に通路があることが分かった。
慎重に降りてみると、そこにはまた細い通路があり、スイッチがあった。
そのスイッチを押すと、今度は床が競りあがりもとの通路まで戻ってきた。
先ほど押したスイッチの一部が戻っている。
もう一度押してみると、今度は別な浅い穴が開き、その奥には通路があった。
細い通路にはスイッチがあり、それを押すと今度は床が動くのではなく、俺自身が転移したようだ。
ここは一体何処だろう? ピラミッドであることは間違いない。
しかし、今までの場所と関連性が無い。後ろには穴があり、前には通路と穴と分岐点がある。
やはり通路やドアの先には何個もスイッチがある。
通路を越える前、部屋に入る前に付いているということは、押すことで何かあるということだ。
そう思い、スイッチを押しては戻り、スイッチを押しては進みの繰り返しで、進んでいった。
目の前には絨毯が敷かれた何かの像が奥にあるが、黄色と赤の不死者が闊歩している。
奴等に目潰しが効くのかは分からない。だが、戦闘開始と同時に目潰しを使い相手の動きを封じることが先決だ。
黄色い不死者には目潰しが当たり、狂乱状態に陥っているが、赤いほうはなかなか当たらず、炎の魔法を何度も唱えてくる。
炎によってマントや鎧にダメージを受けて行くが、炎による抵抗を持たないので、これは回避のしようがない。
自動追尾してくる熱線や火球を回避運動を取りながら赤い不死者に対して大剣を振り下ろすが、なかなか倒れることを知らない。
腕を切り落とし、胴体の半分を貫いても、まだ魔法を唱えてくる。
金属の鎧を着けているおかげで、熱そのものは分散されるが、全身が熱く焼けるようだ。
マントを焼かれ、火を消すために地面に転がりながら剣を振り、不死者たちの脚を切り払った。
もはや足の筋肉や腱など存在しない骨のみの不死者の脚に、多少なれど傷をつけて砕くことが出来た。
足元を掬われバランスを崩す不死者たちを横目に、焼けているマントを脱ぎ捨てて、赤い不死者に被せた後で斬りかかった。
大剣が頭部に当たったことが致命傷になったのか、赤い不死者はそのまま崩れ落ちて行った。
残りは目が見えない黄色い不死者だ。
右手に杖、左手に剣を持ち振り回しているが、それもただ近寄ることが出来ない程度のものでしかなく、ある程度離れたところからの攻撃には無抵抗だった。
俺は優先的に頭部へ向けて突き刺し、顎にダメージを与えて魔法を使えなくしてから剣を振り下ろして頭を砕いた。
黄色の不死者が倒れた後には、複数のアンクと守りが散らばっていた。
アンクには、力と浄化の文字が掘られた物と、炎の文様が付いたものがあった。
守りは、城の入り口で見かけた命の魔除けと全く同じ形状をしたものだった。
文字が書かれたアンクは、恐らく祈りを捧げることで力を得るタイプだろう。
早速、二つのアンクを一つずつ使い、力を開放してみた。すると心なしか力が漲り、アンクは音も無く崩れていった。
炎の文様が付いたアンクは、魔除けとして身につけた。
二人の不死者が守っていたものは、小さな像だった。
それは小間の中にあり、乾燥した花弁、骨、磨かれた石の玉に囲まれるようにして安置されていた。
このまま手を伸ばそうかと思ったが、少しここで手を休めて考えた。
ここまでで幾度とないほどの厳重な警備と罠がある中で、アッサリと取れるものなのだろうか。
昔、このような状況でこういうことがあった。
置かれているものを取ると、それがなくなったことに反応して何らかの罠が発動するということだ。
その時やったのが、同じ重さ……若しくは重さは違ってもいいから何か代替となるものを用意して摩り替えたことだ。
そこで俺は、慎重に素早く像を掠め取りながら、代わりに砂袋を置いた。
そのすり替えは、周りの花弁が全く動かないほどスムーズだった。
緑色の像を手に入れ、その像の顔を見てみた。
この像の顔は、あの鉄格子の前にあった紋章とほぼ一致している。
あそこで何かをすれば、開くかもしれない。そう思った俺は、ピラミッドの頂上まで登り、鉄格子の前まで足を運んだ。
門の天辺の丸い紋章には、奇妙な動物の首が刻み込まれていた。
とはいえ、その顔には見覚えがあるようにも思えた。そう、この手に持っている小さな像と一致していた。
紋章の前で像を振ってみた。すると、鉄格子が音を立てて開きだした。
鉄格子の奥にある階段を登ると、わらを編んで作られた玉座に、険しい表情で警戒心も露な少女が座っていた。
彼女は風変わりな頭飾りをつけ、小さな骨とビーズ玉で出来たネックレスをいくつも首に巻いている。
そのすぐ横では、数名の女戦士が大きな団扇で彼女を扇いでいた。
そして、大きな気味の悪い仮面をつけた別の女が、彼女の右後ろから此方をじっと見つめていた。
「私はアマズールの女王! 我等の聖地に来たのは誰だ? 石を取りに来たのか?」
石とは赤い宝石のことだろう。
しかし、こいつらはその赤い宝石を守っているものだと思われる。
そこで俺は、岩の守護者と違って融通が利くことを予想して、嘘をついた。
「いいや、違う」
表情一つ変えずに付いた嘘を彼女は知ってか知らずか、軽く流したようだ。
突然彼女は、貢物の要求をしてきた。
気に入らないが、流石にこの数では、あまり交戦したくはない。
毒消しのビンを魔法のビンといい、彼女に差し出した。
すると、女王は後ろを振り向いて仮面の女に囁いた。
「言ったとおりだろ? 根性無しだってわかってたのさ!」
根性なしか、確かにそうかもしれない。
だが大勢に少数にで行くのは、ただの蛮勇に過ぎない。
相手はそれを分かっていないようだ。
そのようにし、内心嘲笑っていると、気味の悪い仮面の少女が近づいてきて囁いた。
「シーッ! 取引しない?
私はクワリクボナ。マウムームーの司祭よ。私達この寺院に住んでるの」
意外にも友好的な少女を前にし多少戸惑ったが、敵ではないことがわかると、俺はこのマウムームーについて聞き始めた。 「マウムームーとはなんだ?」
「シーッ! マウムームーに聞こえてしまうわ! マウムームーは炎の池に住んでるの!」
「取引? 何をするんだ?」
「私はあなたの味方よ。役に立つものを持っているわ!」
「そうか。ところで、コズミック・フォージというのは?」
「それは何のこと? 知らないわ」
「あの女王は一体なんだ?」
「女王は下着を着けてないの!」
「なんだって!?」
「シーッ! 後ろにいるわよ!」
俺は苦笑いを浮かべながらも、仮面の少女との取引を行うことにした。
随分と粉や薬、本が充実している。まずは不要物を売却することにした。
命の魔除けは、ル・モンテスに売ったときよりも高い値段で買い取ってくれた。
傷薬の数も多く揃えていて、目潰しもある。一際目を引いたのは、足の粉といわれるものだった。
彼女曰く、これを靴や脚に塗ることで燃える炎の上すら歩くことが出来るものだとか。
奥には赤く光っている道があるので、一つほど買ってみた。
丁度彼女が、マウムームー像を欲しがっていたので、必要ないと思い、像を渡すことにした。
クワリクボナとの取引が終わり、奥に進んでみると、前方には煙を噴き上げる噴火口が待ち受けていた。
熱い石炭の層が火山の淵まで端のように続いており、ピラミッドから反対側へ渡る唯一の道となっていた。
先ほど購入した足の粉というものを革の靴の裏へ丹念に振りかけて塗ってみた。
そして半信半疑、恐る恐る石炭の道へ足を踏み入れてみた。
石炭は真っ赤になるほど熱くなっていたが、足には熱さも痛みも感じられなかった。
石炭の橋は、熱く煮えたぎった溶岩の上を渡って、直接火山口まで通じている。
溶岩の上に立つと、火山から伝わる地響きが感じられた。それはまるで今にも噴火すると言わんばかりであった。
振動は次第次第に激しくなっていった。
足元の溶岩が煮え立ち始め、突然火山が噴火した。
噴火した溶岩からは魔神のような姿が見え、そこから声が響いた。
「お前が石を取りにきたというのなら、わしが成敗してくれよう!」
岩の守護者とは違い、それは溶岩に包まれた体をしていた。
さすがにこいつには粉のような小細工は全て消し炭にされてしまう。
そう考えた俺は、兎に角両手剣を使い、大きく振り回した。
剣そのものはこの炎の魔神に当たっているが、損傷を与えたとは思えない状態だ。
今俺が身に着けている炎のアンクのおかげなのか、吐き出す炎を多少逸らしてくれているが熱さを感じるのは変わりない。
腹部と思われし場所に何度も大きく振りかぶって薙ぎ払うが、それらしい手ごたえというものがなく、敵は変わることなく炎を吐いてきていた。
吐き出される炎は、徐々に小さくなっていくが脅威であることには変わりは無い。
相手の巨体自体からも炎を吹き出しており、それにより十分なダメージになった。
炎の渦が周囲に湧き出し、徐々に俺の体を熱で蝕んでいくが、治療の魔法効果を持つ傷薬を使いながらも、大きく剣を振り回して暴れまわった。
徐々に相手の体が黒く、硬くなって行く。生命力である温度が下がり続けたのか。
何度も同じところに向かって刃を叩きつけて行くうちに、炎の魔神は徐々に崩れ落ち、黒ずんでいった。
黒ずんだ口には、赤い宝石が入っていた。この熱に対して、ビクともしていないようだ。
マウムームーであったものの体は、穴だらけになりながら黒く固まり、そのまま崩れ落ちていった。
この炎の魔神からあの岩の守護者と同じものが現れていたということは、ゾーフィタスが作り出したものだろうか。
高々120年程度前に作り出された魔法の産物程度を神と崇める原住民を、哀れだと思わざるを得ない。
そんなことを考えながら、宝石をザックの中へ入れて石炭の道を歩いた。
石炭の道を超え、玉座にいる女王とその従者には「巡礼をしてきた」など言い、何食わぬ顔をしながら言って、その場を立ち去った。
どうやら自分達の崇めるものが倒されたことすら気付いていないようだ。
初めて会ったとき、自分達の同志を殺してきた相手であることすら気付いていなかったのだから、当然と言えば当然なのか。
ここにいる住民を蔑み、その集団と交戦することを避けながら、俺はピラミッドを降りて城へ戻ることにした。
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