通路の突き当たりには鉄格子があり、こう書かれていた。
「勤務時間中 門の開放は厳禁」
ここをあけるにはどうしたらいいだろうか。とりあえず、周辺を探索してみるのが定石だ。
そう思い、周辺の壁に手を当てて調べてみる。
石で作られたと思われる壁の中に丸い出っ張りがある。城の中に何故迷宮のようなボタンがあるのかは知らない。
そんなことを考えても無意味だ。俺は兎に角その壁の出っ張りを押してみた。
出っ張りは見事壁の中に埋まり、鉄格子が音を立てて開いた。
今度は入った瞬間閉まるようなことはないか警戒しながら鉄格子を潜り、部屋の中へ入ってみた。
古い骨の破片が辺りに散らばっており、地面には真っ赤なしみが付いていた。
不自然なほどここだけ骨の破片が多い。何かあるのだろう。
部屋の中を探ってみると、あまりの骨の量にあきれながらも、一つの頭蓋骨に注目した。
砕かれた頭蓋骨の喉の辺りから奇妙な鍵が見つかった。いまはのきわに、それを飲み込んだのかもしれない。
鍵を調べてみると、鍵の頭には羊の彫刻が施されている。
何に使うかわからないが、持っておこう。
この部屋は二つの通路でつながれていて、片方は鉄格子で閉じられていて、もう片方は先ほど通ったところだ。
これ以上この部屋を探しても得る物はない。そう判断した俺は、この部屋を出ることにした。
先ほどの通路へ出た。左右には先が暗闇で覆われるほど長い通路がある。
正面には先ほど通った二つの階段がある通路がある。
左側の通路から調べよう。50フィート程度歩いたところにまた三つの分岐点がある。
正面は、左手に登り階段が見える。左は下り階段。右側はまた通路だ。
右側の通路を進んでみることにする。今度は正面と右側に分かれ道。右側には地下へ降りるための階段がある。
正面の通路を進むと、今度は右手にドアがある。自分でつけた地図を確認すると、これは正面ホールへ繋がっているようだ。
ドアを横目に通路を進むと、また三つの分岐点がある。
予想通り、正面には下り階段、左手には登り階段がある。右の通路の先には登り階段が見える。
左手の登り階段へ向かって歩いたその時に、それほど遠くない辺りから、衣擦れか、何かが羽ばたくような音が聞こえてきた。
多分、この城の塔に吹き込む風の仕業だろう。ここだけ何故、風が強かったのだろう?
気になった俺はまだ完全に調べていないこのフロアを後にし、階段へ足をかけた。
目の前の階段を曲がった向こう側から、何かがぶつかったような音が聞こえる。
やはり何か近くに居る。音の大きさから人間やそれに準じた動物に近い大きさだということがわかった。
好奇心から俺は、螺旋階段を足早に登った。
前方の階段を駆け上がるガタガタという足音が聞こえる。俺から逃げているのだろうか。
階段を登り、塔の頂上と思われる場所に出た。
塔の床にはパンの屑が散らばっていた。そして、穏やかな風に吹き飛ばされていった。
と、突然、右のほうでドアがバタンと閉まった。
ドアの向こうから、なにやらとても奇妙な物音が聞こえてきた。
何かが強く圧迫されながら、深く呼吸するような音だった。
ドアの向こう側から奇妙な声が聞こえた。
「どっかへ行っちまえ! わしは、『どっかへ行っちまえ』って言ってるんだ。
お前さんが誰であろうと、わしは出て行かん! ここから動かすことは出来んぞ!」
こじ開けようにも、鍵がかかっていてあけることは出来ない。
体当たりしてドアを破壊しようかと思ったが、ここで無闇に煽ることは得策ではない。
とりあえず、ここは一歩引いて塔の外でも調べてみよう。
東のほうには、寒くて陰鬱で、邪悪なものたちの住処との間を隔てる沼が広がっている。
やはり、悪魔や魔女などの伝説は、ただの噂話というわけではないのだろう。
そんなことを思いながら、俺は先ほどの大広間まで戻るために塔を降りることにした。
階段を下りていくときに一人の人間と初めて遭遇した。
と言っても、こちらに好意を持っているわけではなく寧ろ敵対心を露にしている。
髪と髭を伸ばし緑色のチュニックに身を包み、カトラスを振り回した見るからに下品な男だ。
あの奇妙な男を追いかけに来たのだろうか。それはどうでもいい。
今はこの目の前で曲刀を突きつけてくる柄の悪い男を追い払わなくてはいけないのだから。
見るからに説得の余地はないようだな。そもそもこいつに言葉が通じるかどうかも怪しい。
先ほどのように盾を構え、相手の出方を見て、隙を突いて貫いてやろう。
その戦術が見破られたのか、荒くれは切っ先のみ両刃で、残りは片刃の短剣を投げつけてきた。
直線的な軌道でさほど速くはない速度で投げてきているので、盾を使い逸らすには絶好のタイミングだった。
奴は投擲用のナイフを複数本持っているようで、身構えていてもなかなか奴には接近できない。
身構えてばかりでは埒が明かない。そこで俺は盾で相手の視界を遮るように接近し、顔に盾を押し付けて喉元に剣を突き刺した。
突き刺された痛みから、奴は右手に持ったカトラスを乱暴に振り回し俺の左肩周辺に剣の腹や刃先を叩きつけてくる。
致命傷を一度与えた以上、これ以上相手に接近する必要はないと思い、奴のカトラスを盾で押し、腹部に蹴りを入れて間合いをあけた。
緑の服を着た荒くれは、首から血を流しながらもがき、やがて動かなくなり倒れていった。
奴の死体からは銅の鍵が三つ、そして通路に散らばっている投擲用の刃物が二つ、サビかかってくたびれた曲刀を見つけ、自分のザックへ仕舞うことにした。
探索を続けよう。今、何処に居るのか位置を確認してみた。城門を抜けホール右手を出て、四隅の塔の右手後ろに居る。
仮に城門が南だとしたら、北東、北西、南東、南西に塔がある。そして今南東の塔にいることになる。
何故四隅と言い切れるか。それは城門に入る前に外観を確認して正面に二つの塔が見えたからだ。
そして、奥に該当する場所にも一つ塔らしきものを見つけたからだ。崩れていなければ、四つの隅に塔があることになる。
位置の確認が終わったら次は何処に行こうか。正面にはまだ未探索の通路があり、その先には登り階段が見える。
ひとまず登ってみた。すぐ先に下り階段がある。つまりこれは、南東と南西をつなぐ連絡通路か。
連絡通路を渡り、南西の塔へ足を運んでみる。
やはりらせん状の階段を登ると、塔の頂上が見える。
何故か知らないが塔の頂上へ付いた途端、何か違和感を感じる。
ふと頭上を見上げると、塔の屋根を支える木に、蝙蝠の大群が、バランスを上手くとりながらぶら下がっていた。
突然蝙蝠の一匹が襲い掛かってきた!
それは周りにいるどの蝙蝠よりも一際大きく、蝙蝠の長であるかのような印象を受けた。
早速俺は突っ込んでくるのを待ち、来たところを剣で叩き落すつもりで居たが、なかなかそうも行かない。
俺が剣を振る速さより、相手が噛み付いて逃げてくる速度の方が遥かに速い。
更に、動きが一定していない分、機動の予想ができない。
通路の後ろに下がりながら剣を振るうが、空を切るばかりで肝心の目標に当たる気配はない。
戦っているうちに先ほど叩かれ斬られ、噛み付かれた肩に持続する痛みが走るようになった。
ただの痛みとは何か違う。全身の気分が悪くなる痛みだ。
ザックの中にある弱い傷薬を使って見るが、効果は微々たるもので期待しただけの効果は無い。
そうしているうちに、また大蝙蝠は噛み付いてくる。
半分諦め気味で、このまま食われてしまうのも悪くないかと思ったが、そういうわけにも行かない。
寧ろ噛み付いているこの瞬間を捕まえて突き刺してやる。
鈍く続く痛みと、それを与えた相手に憎悪の念を向け、左肩に噛み付いている蝙蝠を右手で掴み、強く握ったまま先ほど手に入れたダークを左手に持ち、蝙蝠の胴体を突き刺す。
胴体の中で刃物が折れるほど強く抉り、力を失った大蝙蝠を塔の外へ力いっぱい放り投げた。
我を忘れて蝙蝠を放り投げ、天井の上に居る蝙蝠達も一斉に翼を広げて飛び立っていったのはいい。
しかし、傷が酷い。どこかで休む場所を探さないと。
確か塔の構造は殆ど同じ……ということは、中央にドアがありそこで体を休めることができる。
そう考え、中央のドアを開けた。
この塔の小部屋には、古臭い破片が山のように積み重ねられていた。
その殆どが腐っているようだった。
皮製のかび臭くて古い胸当てが見つかった。表と裏、中を探ってみるとまだ十分に使えるようだ。
古い胸当てはどうでもいい。兎に角、傷を何とかしないと。
残りの傷薬を目一杯傷口にかけ、干し肉を一切れ喰らい、毒消しの薬を勢いよく飲み干す。
外用なのか内用なのかの判断も付かず、気が動転していたので、そんなことは気にも留めず本能の赴くままに傷を治すことに専念した。
薬をかけて飲み、食事をすることすら疲れ、俺はそのまま小部屋の中で意識を失ってしまった。
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