ウィザードリィ6リプレイ1

それは偶然の噂だった。
酒場で安い麦酒を飲んでいるときに、片耳挟んだ程度の言葉だ。
眉唾モノの話かどうかはわからない。
しかし、自分にとっては明日への糧の一つだったので、耳を澄ませてよく聞いた。
今より一世紀ほど前にあった、魔法のペンと呼ばれたものについてだ。
誇張でしかない表現だとは思うが、内容はこうだ。
魔法のペンによって書き記された言葉は全て現実のものになる、というものだ。
確証は無いが、その財宝が深い森に囲まれた先にある城にあるらしい。
そして今、そのペンを求めて、それらしき城を見つけた。

同志を募ろうにも、運がなかったのか近隣の村の酒場には誰一人として冒険者は居なかった。
勿論単身で行くつもりなど当初はなかった。しかし、そうせざるを得なかった。
一週間も待ち続けていたら、先も来ないだろう。
そう考えた俺は、単身で古びた城へ足を運ぶことにした。

もしあまりにも危険なら、目の前にある城門を潜り抜けて外へ逃げよう。
そのように考え、楽観しながら城門を潜った。
しかし、そういうわけには行かないようだ。先ほどまで開いていた鉄格子がびくともしない。
つまり、俺は引き返すことが出来なくなったようだ。
そこで仕方なしに城の玄関ホールへと進んだ。
変わったものは特に無く、厚い埃が床一面を覆っていた。
廊下の遥か彼方から、何かが動き回る微かな物音が聞こえてくる。
ここでは自分達こそが侵入者なのだ、ということを思い出した。
何時、城の住民が俺を襲ってくるかわからない。

そう考えているうちに早速、歓迎が来た。
その歓迎者とは、動き回る黄色の蔓草だ。
挨拶の代わりだろうか、鞭のようにしなる蔓で体や足を突き刺そうとしてくる。
なんて手荒い歓迎なんだ。毛皮で作られた脚絆を身に着けているため、貫かれることは無かった。
が、非常に鬱陶しい。それだけならまだいいが、少しずつだが鞭を打たれるような痛みに我慢ならなくなってきた。
俺は右手に持つ長剣を使い、黄色い蔓草の根を突き刺そうとした。
しかし、何度突いても一向に当たる気配はない。
当然、奴の動く蔓も俺に向かって襲い掛かってくる。
奴の蔓を何度も斬り払い、数十回の突き合いの末、ついに奴の根っこに突き刺した。
それが致命傷になったのだろうか。奴の体はピクリとも動かなくなり崩れていった。

たかが一戦、一体のつる草のはずなのに、非常に疲れを催す。 休息を得るために、どこか安全な場所はないだろうか。俺はホールの隅々を探り、
ドアに手を掛けて鍵の有無を調べ、安全を確認した後、ホールの隅で体を休めることにした。

休んでから8時間は経っただろうか。傷はあるが、大分収まってきている。
それに先ほどの戦闘での疲れはもう無い。これでまた危機が迫っても戦える。
そう思った俺は、重い腰を上げてホール正面の通路を進んだ。
二股に分かれた短く細い通路があるが、二つとも大きなエントランスへと繋がっていた。
左右の壁にはランプがつけられていて、その明かりがあっても視界の先は暗闇が広がっている。
左右を確認し大部屋を歩いていると、二つの箱を見つけた。
まずは左から調べてみる。

その箱の金属面には、次の文字がしっかりと刻まれていた。
「これを最初に開けよ」

当然ながら、その箱の外側を丹念に調べ上げ、罠が仕掛けられていないことを確認する。
今回は何も罠が仕掛けられていないことが確認された。
いや、自分は罠が見破れなかったとも受け取ることができる。
しかしここで考え込んでいても仕方ない。恐る恐る金属の箱を開けてみた。
箱の中にはいくつかの薬と飾りと、次のように記された巻物が入っていた。
巻物の内容に目を通すと、こう書かれている。
「ひとたびの治療を二度、回復を三度、汝に一つの命、与えること七度」

現代の識字率についてはよくわからない。少なくとも俺が居た町では、子供たちはみんな神官から教えてもらっている。
が、村にあった店の看板は、そこで何が売られているのか一目で分かる絵図を使うところが多かった。
そのことから全体的に見た識字率はあまり高くはないのだろう。
この国には多数の種族が共存していて、それぞれの種族によって識字率が違っていたから、わからないというのも無理はない話だ。
ここでこんなことを考えていても仕方ない。何時脅威が迫ってくるかわかったものではない。
少なくとも、今は安全であることは明白なのだが。
薬と飾りを調べながら数分間考え込んでいたが、薬の判別が終わり次第、腰を上げて真後ろにある箱を調べた。

先ほど開いた箱と同じく、次の文字がしっかりと刻まれていた。
「これを二番目に開けよ」
箱の中にはいくらかの金貨と剣と、次のように記された巻物が入っていた。
「あらゆる可能性を考えよ」
金で出来た貨幣だ。
通常ならこれを手に入れた時点で、城の入り口にまで戻り体勢を立て直したいところだ。
しかし状況が状況なので、そうはいかない。
部屋の明かりを照らしているランプがあるということは、近い間で誰か人が入った形跡があるということだ。
つまり、商売が出来る可能性があるということだ。次は、剣について調べておこう。
シンプルな形状で、今まで使っていた長剣と重さを比較すると殆ど差はない。
先ほど手にした剣の重量は、5ポンド程度だろうか。
今手にした剣の変わったところと言えば、握りがとても手に馴染む。
これで、どちらかの剣が使い物にならなくなったとしても、もう片方で凌ぐことが出来そうだ。
俺はこの手に馴染む剣を手にすることにした。

二つの箱を後にし、暗闇の先へ足を運んだ。
正面には、羽根の生えた金色の女神の彫像が付いた水場がある。
そして左右それぞれの通路に扉と階段、水場の裏にも扉がある。
水場について調べてみよう。水の色は澄んでいて、匂いもない。
少量手にとって口に含んでみても、特に変わった味はしない。
この水は飲んでも大丈夫と判断した。

水場の近くにある左右のドアに手を掛けてみる。
ここも鍵がかかっていて、まともに開きそうもない。
階段が左右にあるが、まだフロアの探索が終わっていないので後回しにしよう。

何か小さな足音がする。三匹の大きな鼠だ。階段から降りてきたのだろう。
赤い瞳をぎらつかせ、黄土色の体をしている。
それは素早く動き回り、俺の足を噛み付いたり引っかいたりしてくる。
幸い、狙いはそれほど正確ではないが、毛皮の脚絆と履物を時折貫いて傷を負わせてくる。
こいつらを突き刺すのは、先ほど手に入れた使いやすい長剣を持ってしても難しい。
ここは無闇に突き進むのは得策ではない。
そこで俺は壁を背にし、小さな盾を構えて奴らが跳びかかってくるのを待つために身構えた。
奴等は主に脚部を直線状に狙ってくる。そこを狙って刃物を押し当てて引き裂いてやろうという魂胆だ。
盾を構え身構えていると、早速奴等は一斉に跳びかかってきた。
一匹は盾で殴り飛ばし、もう一匹は剣で突き刺す。突き刺したほうは血を流しながら仰向けになって倒れている。
殴り飛ばしたほうも、体を痙攣させながらもがいている。
残りの一匹には攻撃をしかけることはできず、逆にまた脚を引っかかれた。
もう一度正面からだ。俺は同じ様に武器を身構え奴が迫ってくるのを待った。
狙い通りだ。奴が跳びかかってきたところを盾で殴り剣を振り下ろし、鼠の体を引き裂いた。
今の戦いでわかったことがある。迫ってくる相手には迎えうてばいい。
そうすれば、労力を節約しながら効率的に脅威を排除できる。
鼠が転がるなか、俺は二つの階段の間にあるドアを開き、奥へ進んだ。


ウィザードリィ6リプレイ2
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